会社の機関は、法人として意思を決定し、実行するために設置される存在
機関には、株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、委員会などがあり、それぞれの役割を果たしながら、相互に関係しあっています。
株主の集まりが「株主総会」で、会社の最高決定機関という位置づけになります。株主は実際に会社の経営を行うわけではなく、「取締役」に業務の執行を任せています。この取締役が、株主に不利なことを行わないように監視する役割を果たしているのが「監査役(監査役会)」です。
新会社法では、最低限のルールを定めて、あとは会社が自由に機関の設計をできるようになりました。これを「<機関設計自由の原則」といいます。
株主総会は、取締役らの選任・解任などの重要事項を決定します
会社の実質的な所有者である株主のよって構成され、その総意によって会社の意思を決定する、株式会社の機関です。つまり、株式会社では必ず設置しなければなりません。
会社に関する一切の事柄について意思決定権を持ちますが、全ての事項ごとに株主総会で決議を行っていては、迅速で合理的な経営を行うことは現実的に困難です。そこで、取締役会設置会社では、法律で特に定められた重要な事項と定款で特に定められた事項についてのみ、株主総会で決議できることになっています。ここでいう「法律で特に定められた重要な事項」とは、取締役らの選任・解任、報酬の決定、定款変更、資本金額の減少、合併・解散などが該当します。
決算期ごとに提示開催される「定時総会」と必要があるときに臨時に開催される「臨時総会」の2つの種類があります。原則として、取締役が株主総会を招集することになっています。株主に出席の機会と議決権行使に関する準備期間が必要であるという観点から、少なくとも開催日の2週間前までに、召集通知を発しなければなりません。
議事の方法は、新会社法で詳細に定められていませんので、定款や慣習に基づいて進められます。議決権は原則、1株について1つ(1株1議決の原則)で、株式数に応じた影響力を行使できるようになっています。株主の決議には以下のようなものがあり、それぞれの用件が異なっています。
普通決議
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数を思って行う決議です(309条 1項)。法令、定款に別の定めが無い限りこの方法が原則となっています。
特別決議
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数で決する決議です(309条 2項)。重要事項について行われます。
特殊決議
特別決議よりさらに厳重な要件が必要となる決議です(309条 3項・4項)。特別決議の対象事項よりも重要とされる事項について行います。
取締役には「善管注意義務」と「忠実義務」が課せられています
取締役会非設置会社において、会社の業務を執行し、会社を代表します。取締役が複数いる場合には、会社の業務執行は原則として取締役の過半数で決定することになります。
選任と解任は、会社の経営に重大な影響を及ぼすので、株主の意志に基づいて決定される必要があります。そのため、取締役の選任・解任には株主総会の決議が必要となります。
株式会社との関係は委任関係となっており、「善管注意義務」が課せられます。これは、社会通念上で要求される平均的な注意義務のことで、同じ取締役の地位の人が、同じ状況に状況になった場合、注意するであろうと考えられる事象に注意を払って職務を遂行すると解釈されています。
また、取締役には「忠実義務」も課されています。これは、法令・定款・株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行うことです。判例では「善管注意義務」の内容を具現化したものとされ、両者の内容は同質とされています。
これら二つの義務から派生して、他の取締役が任務に反する行為を行わないように互いに監視しあう義務も課せられており、これを「監視義務」といいます。その結果として、取締役は、自己の任務違反行為だけでなく、他の取締役の任務違反についても責任を負うことがあります。また、内部統制の構築義務も課せられています。
取締役の責任は、従来、過失が無くても会社に損害を与えた場合には責任を問われる「無過失責任」でしたが、新会社法では、会社に損害を与えないように注意を尽くしたことが示されれば、賠償はしなくても済むという「過失責任」に改められ、その責任が緩和されました。
代表取締役の役割と権限
会社の業務を執行し、会社を代表する権限を持つ重要な機関です。従来は設置が必須とされてきましたが、新会社法では任意となっています。
取締役会設置会社においては、代表取締役の選定は取締役会が行うことが義務付けられています一方、非設置会社では、原則として各取締役が単独で会社を代表しますが、任意に代表取締役を定めることができます。
代表権の制限
代表権を株主総会や取締役会の決議によって内部的に制限したとしても、その事実を知らない善意の第三者に内部的制限を主張することはできません。取引の相手方は代表取締役に会社を代表する一切の権限があると信頼して取引を行っているためです。
第三者に対する責任
職務を行うにあたって、第三者に損害を与えた場合には、会社は損害を賠償する責任を負います。
代表権の乱用
自己または第三者の利益を図る目的で代表権を行使した場合、その行為は無効になることもあります。
取締役会は業務執行に関する会社の意思決定を行います
取締役会は、全ての取締役で構成される機関のことで、3ヶ月に1回以上召集しなければなりません。取締役会は、業務執行に関する会社の意思決定を行うとともに、取締役の職務執行を監督し、取締役の中から代表取締役を選定(解職)する権限を有しています。
取締役会が、会社の業務執行の全てを決定する必要はなく、会社経営のスピード性の観点から、日常的な業務執行の決定を代表取締役に委ねることもできます。しかし、この場合でも「重要な財産の処分・譲受」や「多額の借財」など、会社の経営に重大な影響を与える事項は、代表取締役に委ねることはできません。
取締役会においては、ある決議について特別な利害関係にある取締役は、決議に参加することはできません。また、取締役は特別に重い責任と義務を負う少人数の人たちですので、株主総会のような代理人や書面による議決権行使は認められておらず、取締役会には、自らが出席しなければなりません。決議は、原則として議決に参加できる取締役の過半数が出席し、その過半数で行います(369条 1項)。
また、取締役が6人以上で、うち1名以上が社外取締役である取締役会設置会社では、あらかじめ3人以上の「特別取締役」と呼ばれる取締役を選定し、その議決を取締役会決議とみなして、重要な財産の処分・譲受の決定をすることができます。
監査役は、取締役の職務執行が適切かどうかを監督します
取締役の職務執行が適切に行われているかを監督する機関です。株式会社において、取締役に与えられている権限は大きいため、それが乱用され企業のコンプライアンスがおろそかになる危険性があります。
そのような事態を防ぐために、株主は取締役を選任・解任する権限があります。しかしながら、株主だけだと経営監督能力が十分ではない、あるいは、そもそも経営に興味がない株主もいると考えられます。そこで、取締役の職務を常時チェックし、迅速に対応できる監査役が設置されるようになりました。
公正さを担保するため、監査対象となる株式会社及びその子会社の取締役や使用人、子会社の会計参与もしくは執行役を兼任することは禁じられています。
監査役の権限は、大きく分けて以下の2つがあります。
業務監査権限
取締役が法令や定款、株主総会の決議に違反していないかをチェックする権限です。業務監査権限を実行化するため、いつでも取締役や子会社に対して、事業報告を求めることができる「報告要求」や、会社の財産の状況について調査できる「財務調査」、取締役の違法行為を事前に差し止める「違法行為差止請求権」などの権限が与えられてます。また、取締役会に出席し、必要があると判断すれば、意見を述べなければなりません。
会計監査権限
計算書類(財務諸表)が正しく作成されているか、利益処分案に違法性がないかをチェックする権限です。具体的には、計算書類及び付属明細書、臨時計算書類などを監査し、意見を記載した監査報告を作成する権限を指しています。
監査役会とは、全ての監査役から構成される株式会社の監査機関で、監査役の調査を分担することによってその実効性を高めようという目的で導入されました。委員会設置会社を除く公開会社である大会社に設置義務があります。
監査役会を構成する監査役の半数以上は、社外監査役でなければならず、また監査役の中から、フルタイムで監査の職務に専念する常勤監査役を選定する必要があります。
計算書類や付属明細書の監査を行う会計監査人
会計監査を専門的に行う機関です。大会社(資本金が5億円以上、あるいは負債の合計が200億円以上の会社)は、規模が大きく、業務が膨大かつ複雑になるため、会計監査人を必ず設置しなければなりません。監査の適正さと高い専門性が求められるため、公認会計士か監査法人のみが就任できます。
求められる職務は、計算書類や付属明細書の監査を行い、その結果を監査報告書に記載することです。また、取締役などの不正行為や法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、その事実を監査役などに報告しなければなりません。これらの職務を遂行するため、会計監査人には「計算書類等の監査」、「会計監査報告の作成」、「会計帳簿の閲覧等」、「会社・子会社の調査」の4つの権限が与えられています。
会社に対する責任は、社外取締役と同様に株主代表訴訟の対象となります。
会計参与は取締役らと共同して計算書類などの作成を行います
新会社法で新たに導入された株式会社内の機関で、取締役や執行役と共同して計算書類などの作成を担当し、株主総会で、それらの書類についての説明を行います。出来上がった計算書類を監査する監査役とは、この点が大きく異なります。
従来、中小企業の計算書類(財務諸表)は、それをチェックする監査役に特に資格が求められることもなく、名義貸しなども行われており、決して信頼性の高いものではありませんでした。会計参与になれるのは、公認会計士(監査法人)、税理士(税理士法人)のみですので、計算書類の作成に携わることで、その信頼性を高めることができるのです。